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東京地方裁判所 昭和34年(行モ)1号 決定

申立人 彌栄自動車株式会社

被申立人 京都府地方労働委員会中央労働委員会

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人は、「申立人を原告とし、被申立人中央労働委員会を被告とする当庁昭和三三年(行)第一八二号不当労働行為再審査申立棄却命令取消事件の判決が確定するまでの間、被申立人京都府地方労働委員会が京都地労委昭和三二年(不)第九号事件についてした別紙記載の趣旨の命令のうち、武甕留次郎に関する部分および被申立人中央労働委員会が右に対する申立人の再審査の申立を棄却した、中労委昭和三三年(不再)第四号事件についての命令の執行を停止する。」との決定を求めた。

一、被申立人京都府地方労働委員会のした命令の執行停止の申立について

行政事件訴訟特例法第一〇条第二項に明定するとおり、裁判所が行政処分の執行により生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があると認めて、決定をもつて当該行政処分の執行を停止すべきことを行政庁に対して命ずるについては、当該行政処分の取消訴訟が提起されていることを要するのである。

ところが本件において申立人が執行停止の申立をしている被申立人京都府地方労働委員会の命令については、取消訴訟が提起されていないのみならず、右命令に対しては、申立人からすでに被申立人中央労働委員会に再審査の申立をなし、かつ、その申立は棄却されたのであるから、そもそもかかる場合においては、申立人においてもはや被申立人京都府地方労働委員会の命令に対して取消訴訟を提起する余地のないことは、労働組合法第二七条第六項の規定に照らして明らかである。

従つて本件申立中被申立人京都府地方労働委員会のした命命について執行の停止を求める部分は却下すべきものである。

二、被申立人中央労働委員会のした命令の執行停止の申立について

不当労働行為の救済申立事件に関する労働委員会の命令がその効力を生じた場合には、使用者はこれに服従すべき公法上の義務を負担するけれども、使用者に対してその義務の履行を強制するには、行政代執行法第二条に定める要件を備えるものについて当該労働委員会がその代執行をするか、または労働組合法第二七条第七項に規定するいわゆる緊急命令を得て、使用者がこの緊急命令に違反したときに、同法第三二条所定の過料に処することにより間接にその遵守を強制するほかない(労働組合法第二八条の規定に基く処罰による間接強制の場合は、ここでは論外とする。)のである。ところで労働委員会から不当労働行為の救済措置を講ずべきことを命ぜられた使用者がその命令について行政事件訴訟特例法第一〇条第二項により執行の停止を求めている場合に、他方において当該労働委員会がその命令に関し緊急命令の申立をしたときには、裁判所は、この二つの申立のうちいずれか一方を認容し、他方を却下するという二者択一の裁判をすべきであつて、一面において労働委員会の命令について緊急命令を発しながら、他面において執行停止の申立をも認容するというような判断の分裂は許されるべきではないことになる。ただ裁判所としては、一たん緊急命令を発した後においても、この命令を存続させることが不当不要となつた場合においては、当事者の申立または職権によりいつでも緊急命令を取消または変更することができる(労働組合法第二七条第七項)のである。

ところで本件における被申立人中央労働委員会の前記命令につき、当裁判所は、被申立人中央労働委員会の別途緊急命令の申立(当庁昭和三四年(行モ)第八号事件)にもとずいて、申立人に対し、武甕留次郎に金十五万円の賃金相当額の支払をする限度において被申立人中央労働委員会の前記命令に従うべき旨の緊急命令を発したのである。そうだとすると、上述したところからして、被申立人中央労働委員会の前掲命令のうち、緊急命令の発せられた部分についてはその執行を停止する余地がなく、緊急命令の発せられなかつたその余の部分についてはその執行により申立人に償うことのできない損害を生ずる事情があるものとは認められないから、その執行の停止を求めることはできないといわなければならない。

したがつて本件申立中被申立人中央労働委員会のした命令について執行の停止を求める部分も却下を免れないものといわなければならない。

以上のとおり、本件申立をすべて却下することにし、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 桑原正憲 駒田駿太郎 石田穰一)

(別紙)

「彌栄自動車株式会社は、昭和三二年三月一四日附の申立人(武甕留次郎、松本秀一)両名に対する懲戒処分(雇用に三カ月の期間を付ける)を取消し、右両名を昭和三二年九月二一日彌栄自動車株式会社観光バス部門からヤサカ観光バス株式会社に転職した運転士等と平等の条件で同会社に転職せしめるか、若しそれが不能ならば右両名を彌栄自動車株式会社のハイヤー又はタクシー部門に復職せしめ、かつ前記処分の日から右転職又は復職に至るまでの間両名が得べかりし賃金相当額から右両名が前記懲戒処分後ハイヤー部門で勤務していた間の賃金を控除した額を支給すること。」

【参考資料】

緊急命令申立事件

(東京地方昭和三四年(行モ)第八号昭和三四年一二月一五日決定)

申立人 中央労働委員会

被申立人 彌栄自動車株式会社

主文

被申立人を原告とし、申立人を被告とする当庁昭和三三年(行)第一八二号不当労働行為再審査申立棄却命令取消事件の判決が確定するまで、被申立人は、申立人が中労委昭和三三年不再第四号事件についてした命令に、武甕留次郎に対しこの命令が到達した日から十日以内に金十五万円を支払う限度において従わなければならない。

(裁判官 桑原正憲 駒田駿太郎 石田穰一)

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